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【山口弁講座】知っちょった!?方言研究家に聞いた、山口弁の知られざる事実vol.1

山口県の代表的な方言「ぶち」は流行語!?
「えらい」は元来、標準語!?

月刊タウン情報トライアングル7月号にて、読者の皆さんから山口弁について、いろんなエピソードを募集しました。 (関連記事はこちら

そこで!方言研究家でもある森川信夫さんに、皆さんから挙った疑問について直撃!
たくさんの貴重なお話を聞けましたので、3回に分けてご紹介していきます。
今回は「知らんかった」豆知識が満載の第1回目です。

知っちょった!?①「ぶち」は新方言である!?

知っちょった!?②「えらい」は標準語!?

知っちょった!?③「わや」の語源は、平安時代に遡る!?

「ぶち」は新方言である!?

「ぶち」…強調する場合の方言。「すごく」「非常に」などの意。
使用例→「ぶち暑いっちゃね~(すごく暑いよね~)」

山口県民なら、当たり前に使っている「ぶち」の表現。
子どもの頃から、普通に使ってた…
と言う山口県民の方も多いと思います。

なのに…新方言って、どういうこと!?

実は、現在のように“強めの副詞”として「ぶち」が使われるようになったのは、1960年代後半頃から。
若者や子どもを中心に使われるようになった、もともとは当時の流行語だったのです!

古くから使われていた山口弁に「ぶちける」「ぶちめぐ」、標準語に「ぶち壊す」「ぶち込む」などの言葉があるように、本来は接頭語「打ち(ぶち)」+「動詞」の使い方。
そこから派生した副詞だと推測され、「ぶち美味しい」「ぶち綺麗な」など、現在ではすっかり定着した、便利な山口県民の方言になっています。

つまり、70代以上の方は「ぶち」を使ってない方が多いのかもしれません。
今後、年配の方と会話をする際に、少し意識してみてはいかがでしょう?

では、せっかくなので、山口県の「ぶち」に相当する、全国各地の新方言を見てみましょう。

静岡県・首都圏→「ちょー」※全国的
関西→「めっちゃ」「むっちゃ」「ばり」
名古屋市周辺→「でら」
北海道・新潟県→「なまら」
福岡市周辺・長崎県→「ちかっぱ」「ちかっぱい」
 ※福岡市周辺では「ばり」も
北九州市周辺→「でたん」
宮崎県→「てげ」
大分県・沖縄県→「しんけん」
広島県→「ぶち」「ぶり」「ばり」

いや~、バラエティ豊富です。
おそらく、どの新方言にも育んできた由来があるのでしょうね。

「えらい」は元来、標準語である!?

われわれ山口県民の言う「えらい」。
他県民に伝わらなかったエピソードとして、多くの読者さんから声をいただきました。

・「えらい(つらい)」が、「偉い」と思われてしまう…。(H・20代・♀・下松)
・もうクソ「えらい」のうって言ったら、賢いの意味でとられ、笑われた。(Y・40代・♀・光)
・疲れたという意味で「えらいわー」と言ったら、他県の人に「誰が偉いの?」と聞かれた。(H・30代・♀・光)

月刊タウン情報トライアングル2020年7月号より

標準語の「偉い」は、「社会的な地位が高い」「偉大である」などの意ですね。
これに対して山口弁の「えらい」は、「くたびれてつらい。疲れている」などの意
 ※使用例→「この坂、登るのえらい」(登るのがつらい)

でも、同じような意で、この使い方をしている所が、北陸・東海・近畿・中国・四国地方など、広範囲にわたってあるのです。

そもそも「えらい」という語が、中央語として文献上に記されているのは江戸時代中期頃からだそうで、その時の意は「大変である」「非常に」「たいそう」など。

実は「社会的な地位が高い」「偉大である」という現在の標準語の意味が、中央語(江戸語)として定着し始めたのは、幕末の頃から。

一方、ほぼ同じ幕末の頃、上方では「くたびれてつらい。疲れている」という意で「えらい」が使われるようになりました。
これが現在、山口県を含め、各地の“方言”として広がったという訳です。

ちなみに「えらい」の表記は、江戸時代には仮名で書くのが一般的。
明治時代中期頃から、「偉い」という漢字をあてる表記が増えていったそうです。

「わや」の語源は、平安時代に遡る!?

「わや」…
1)道理に合わない言動。無茶な言動。訳のわからないこと。でたらめなこと。また、そのさま。
2)だいなし。滅茶苦茶。乱雑。また、そのさま。

使用例…
「よいよ、わや言うのー」(本当に、無茶なことを言うなぁ)
「猪が、畑をわやにせてしもーた」(猪が、畑をだいなしにしてしまった)
「あんたの部屋、わやじゃーね」(あなたの部屋、乱雑で滅茶苦茶じゃない)

「わや」は現在、山口県だけでなく、全国各地に分散して使われている方言です。

そして遡れば、江戸時代の浄瑠璃や歌舞伎などにも、数多くの使用例が見られます。
そう、かつては中央語だった言葉なのです。

「わや」の語源は「わやく」という言葉が変化したもの。
「わやく」も元は中央語で、現在は方言化しています。
「わやく」は、「道理に合わない言動。無茶な言動。訳のわからないこと。でたらめなこと。またそのさま」の意のほかに、「ふざけること。戯れること。冗談」あるいは「嘲笑。からかうこと」さらに「下品で卑しいこと」という意味で使われる山口弁です。

「わやく」の語源は、「枉惑(おうわく)」=「道義に反する言動によって、人を惑わすこと。また、そのさま」という古語が変化したものだと言われています。
「枉惑」は、平安時代の『今昔物語集』などにも、その用例を見ることができるようですよ。

いかがでしたか?
やはり方言にもルーツってあるんですね。
また今後は、第2回「山口弁の地域差ってある?(7/22(水))」、第3回「この言葉も山口の方言だった!(7/29(水))」についてお届けしていきます。

取材協力/
山口県方言研究家 森川信夫さん
防府市生まれ。防府高校卒業、早稲田大学第一文学部日本文学専攻を卒業後、防府市立防府図書館に勤務。2019年3月まで10年間館長を務める。
山口県方言研究の第一人者で、「やまぐち方言帳」、「面白くて為になる山口弁よもやま話」、「山口県方言基本発音体系」など、山口の方言に関する著書は多数。また、山口県が舞台となった映画「ほたるの星」「長州ファイブ」「マイマイ新子と千年の魔法」などの方言指導も担当。
現在は、別府大学・九州国際大学・広島文教大学・山口県立大学・山口大学の非常勤講師(図書館情報学)、講座・講演会の講師の他、KRYラジオ「モーニング+」で山口弁のコーナーを担当(毎週木曜7:28~6分間)するなど、各種メディアでも活躍中!


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