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【山口弁講座】知っちょった!?方言研究家に聞いた、山口弁の知られざる事実vol.2

テーマ「山口弁に地域差は生じる?」

月刊タウン情報トライアングル7月号にて、読者の皆さんから山口弁について、いろんなエピソードを募集しました。
そこで!方言研究家でもある森川信夫さんに、皆さんから挙った疑問について直撃!

第2回目の今回は「山口弁の地域差ってある?」という、皆さんからの疑問にお答えします。
※第1回目はこちら

山口弁の使用については、現在では、
地域差よりも家族差や個人差が大きい。

「そ」と「ほ」の境界線はあるのか。

山口弁の使用については、現在では、
地域差よりも家族差や個人差が大きい。

山口弁は、歴史的に見ても、大枠では日本語における防長方言という、ひとつのまとまった方言体系に収められるものですが、細かくひとつひとつの語彙を取り上げてみれば、微妙な小さな地域差が複雑に絡み合って存在しています。

しかし現在では、テレビの影響の大きいことや、人の移動の激しいことなどもあって、そうした県内での地域差は薄れ、むしろ家族差・個人差の方が大きくなってきています。

方言は大きく、2つのカテゴリーに分けられます。

1)地理的方言
2)社会的方言

1)地理的方言は、いわゆる「山口弁」など、その地域において用いられる方言体系。

2)社会的方言は、業界用語・職人言葉・若者語などを言います。
職人言葉は、その職業特有の隠語など。寿司職人が使う「あがり」「ねた」「しゃり」など。
「ヤバイ」「ウザイ」「キモイ」「マジっすか」などは若者語。

ここで、宇部市近郊などで聞かれる「ぶるとっぴん」という言葉を取り上げてみます。
「大急ぎ」「大至急」といった意。
※使用例→「ぶるとっぴんで行くね」(大急ぎで行くね)

これは、古くから使われていた方言ではありません。
比較的近年、若者方言として流行ったもので、
「ぶる」→「フル」と「ぶち」の融合か?
「とっぴん」→①「トップ」と「ピン」の融合か?「ピン」は1、または第1の意。あるいは擬態語か? ②「突飛」が変化したものか?

つまり、「地理的方言」と「社会的方言」が交わった新方言のようなのです。

さて、方言の使い方に違いが出るのは、現在では、地域差よりも家族差・個人差が大きい。
そうお話ししてきましたが、かつて県内での方言区画が比較的明確だった山口弁をひとつご紹介しておきます。

「しもやけ」→「かんばれ」(周防部瀬戸内)、「かんやけ」(長門部大半・周防部内陸)、「ゆきやけ」(旧阿武郡北部・旧都濃郡北部・旧玖珂郡北部)などです。

その土地の気候・風土と関係ありそうな方言で、面白いですね。

「そ」と「ほ」の方言に境界線はあるのか。

「~するそ?」「~するほ?」
といった形で、問いかけや疑問を表す終助詞として、よく使われる山口弁です。

また、疑問・問いのほかに、表現の断定や納得確認、きっぱりとした命令の意を表す場合も使われます。
標準語の終助詞「の」に相当する語です。

例)
「きにょーは、休みじゃったそ」(昨日は、休みだったの)
「どねーせるほ?」(どうするの?)
「はよー行くそ!」(早く行くの!)
「はー、泣かんほ」(もう、泣かないの)

「そ」「ほ」の下に、他の助詞や助動詞を伴う場合もありますよね。

例)
「きにょーは、暑かったそいね」(昨日は、暑かったのよ)
「あんたもやったほか?」(あなたもやったのか?)

さらに、若干違う使い方もあります。
「そ」「ほ」が、「物」「者」「事」などの意を表す場合です。
標準語の「の」に言い換えられます。

例)
「さっき見たそは、あれかいね?」(さっき見たのは、あれかな?))
「真面目なほがえー」(真面目なのがいい)

さて、本題。
使用域分布についてです。

大きく分けると、
県の中部・東南部を中心に「そ」。
西南部や北浦地区などを中心に「ほ」。

(「ほ」を使う地域では、「そ」と混用されるところもあります)
東部では「の」 ※個人差も大きい。

「そ」と「ほ」の使用域の境界線は、一概には言えませんが、旧佐波郡と旧吉敷郡あたりが境目と思われます。

防府市の大半はおおむね「そ」、大道地区から海岸部を西(旧秋穂町方面)へ行くと、「ほ」の使用が増えてきますが、旧小郡町では「そ」を使う人も多いのです。
旧阿知須町から宇部市の方へ行くと「ほ」を使う人が増えてきます。

ちなみに、もともと使われていたのは「そ」で、次第に「ほ」に変わって広がったのでは、と推測されます。

理由は、山口弁では「サ行音」が「ハ行音」になまる傾向にあるからです。

例えば
「しち(七)」→「ひち」
「ふとんをしく(敷く)」→「ふとんをひく」
「しわる」→「ひわる」などです。

方言は、時代とともに、徐々に変わっているということ!
いや~、方言にも流行があるんですね。

次回も森川先生にお話をお伺いして、第3回「この言葉も山口の方言だった!(7/29(水))」をテーマにご紹介していきます。

取材協力/
山口県方言研究家 森川信夫さん
防府市生まれ。防府高校卒業、早稲田大学第一文学部日本文学専攻を卒業後、防府市立防府図書館に勤務。2019年3月まで10年間館長を務める。
山口県方言研究の第一人者で、「やまぐち方言帳」、「面白くて為になる山口弁よもやま話」、「山口県方言基本発音体系」など、山口の方言に関する著書は多数。また、山口県が舞台となった映画「ほたるの星」「長州ファイブ」「マイマイ新子と千年の魔法」などの方言指導も担当。
現在は、別府大学・九州国際大学・広島文教大学・山口県立大学・山口大学の非常勤講師(図書館情報学)、講座・講演会の講師の他、KRYラジオ「モーニング+」で山口弁のコーナーを担当(毎週木曜7:28~6分間)するなど、各種メディアでも活躍中!




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